モウセンゴケ〜甘い香りに誘われて

「送って頂き、ありがとうございました」

「降りるのを手伝いますよ」

車から降りて助手席に回って、手を貸してくれるのかと思っていた。

だが、子供を降ろすように、脇を掴まれて持ち上げられ、その際に、鷹也さんは耳元で話しだしていた。

「優香さん、あなたは、私を捕らえた唯一の人です。甘い香りで誘い、魅了しておきながら帰ってしまう。…罪な女です」

チュッと音だけたてた不意打ちの耳へのキスに、ドキッとさせられる。

その後、地面に下ろされたが、彼のつけるスパイシーな香りと行動が、誰かを思い出してドキドキと高鳴りだしていた。

表情はほとんどわからないが、口元が満足そうに弧をえがくように動いていた。

「今度、式場を見てまわりましょう。あなたの方で希望をいくつか出しておいてください」

「…はい。今日はありがとうございました」

「もう婚約者だが…忙しく、なかなか会えない。だが連絡はするから、優香、俺を忘れるなよ」

口調を変えた鷹也さん。

いい声は同じなのに、背筋からゾワゾワとするほどの美声で名前を呼び捨てにされ、目が潤んでくる。

別人なのに、あの時の男のように、抱かれたいと思ってしまっていた。

「…その表情、今すぐ押し倒したくなるよ」
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