モウセンゴケ〜甘い香りに誘われて

「えー」

「えーじゃないの。昔のような貧乏に戻りたくないでしょ。ご実家がお金持ちでも本人の財産がなかったら、意味がないのよ。ママは、あの人がお金を持ってると思って結婚したのに、お金を持っていたのは、亡くなった奥さんの方だったの。あの人は、婿養子で、ほとんどの相続は娘のあの子だったのよ。結局、私には、あの人の生命保険と少しの遺産しかもらえなかった。コブ付きで我慢していたのに、あれっぽっちしかもらえないなんて詐欺よ。だから、あなたは、失敗しちゃダメよ」

今にも、リビングのドアを開けて、怒鳴りたい。

義母の本心は薄々気づいていたが、詐欺とは…こちらが詐欺にあったようなものだ。

彼女こそ、うちに不幸をもたらし続け、寄生し続けている。

植物の葉の裏につき、隠れて見えていないうちにジワジワと養分を吸い取り、気がついた時には葉だけでなく、植物の命でもある株さえも弱らせてしまっているハダニのようだ。

もう、駆除するしかない。

数年の情など、この人達にはないのだ。

私は、叔父に電話をかける。

「叔父さん、東雲 鷹也さんと結婚するわ。その前に、叔父さんとの養子縁組の手続き、早いうちにお願いします」

『羽鳥ではなくなるんだよ。いいんだね⁉︎』

「はい」
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