モウセンゴケ〜甘い香りに誘われて
ここで断ったら、義母まで巻き込んで面倒になると、憂鬱な気持ちで頷いた。
「今回だけよ。もう、私は羽鳥の人間じゃないの」
「何言ってるの⁈義妹なのは変わらないでしょ」
一華の都合でのみの妹扱いは、今回で終わりだ。
血のつながりもない、籍も変われば他人だ。
羽鳥の姓を捨ててしまい、亡くなった母には申し訳ないと思う。
だが、どこかに嫁げば同じことだった。
ただ、後継がいなくなるだけだが、羽鳥運輸は叔父が守り、後々、私の子供が継ぐことになる。
そう思うことで、自分自身を納得させている。
そして、翌日、一華と一緒に彼女の友人だという方の誕生日パーティー会場に来ていた。
私も、それなりの社交界に顔を出していたが、次元が違う。
本物の富裕層であり、上流階級にいる人達の集まりだ。
こちらから声もかけることも躊躇う一族ばかり。
羽鳥など、足元にも及ばない方々。
東雲家もそうなのだが、運良く縁があり、いずれ私も彼と共にこの中の仲間入りをしなければならないと思うと、足が震えそうだ。
そんな私の隣で、能天気な一華は、誰かを探している。
「あー、見つけた」
私の手を掴み、人の隙間を抜けて駆け寄る一華に、相手は困惑している。