モウセンゴケ〜甘い香りに誘われて

「静香さん、お誕生日おめでとうございます」

語尾にハートマークが飛んでいる一華は、言葉とは裏腹に誕生日の彼女よりも、隣に立つ男性を気にしている様子だ。

「えっ、確か、一華さんだったかしら?」

「はい。覚えていただいて嬉しいです。隣は、前にお話ししていた義妹です。あの東雲の御曹司の婚約者になったってお話ししたでしょ。静香さんと是非、お近づきになりたいって言ってついてきてしまったんです。迷惑でした?」

連れてこられたんですけどね。

「あなたが東雲の…」

静香さんという女性は、隣に立つ男性をチラッと見上げ、またこちらに視線を戻した。

「守井 静香です。あなたは?」

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私、白石 優香といいます」

「白石?羽鳥ではなく?」

「はい、先日、叔父の養女になりました」

「まぁ、そうだったの。でも、いずれ東雲に嫁ぐのに、なぜわざわざ養女に?」

「静香、失礼だぞ。事情があるのだろう。詮索好きは大概にしろよ」

「もう、お兄様、酷いわ。私は、優香さんと仲良くなりたくてお聞きしたのよ」

頬を膨らませて兄に拗ねる妹の光景は、仲睦まじいようで、うちと違い微笑ましいと兄の方を見上げた。
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