モウセンゴケ〜甘い香りに誘われて
そこにいたのは、見覚えのある男。
あの一夜の男だった。
鷹也さんと同じダークブラウンの髪色をサイドに流したウルフヘアは、彼の野生味を醸し出している。
あの夜よりも、ワイルドでかっこいい。
「静香さん、私にそちらの方をご紹介ください」
「えっ?」
一華の図々しさに、静香さんは驚き顔だ。
そう、上流階級では、明らかに自分よりも格上に紹介を求めるのはマナー違反なのだ。
先ほどのやり取りから、静香さんと一華の関係性も怪しい。
一華は、一度お話しして気に入ればお友達と思い込むふしがあり、それは、男性でも同じだろう。
だが、静香さんの方は、知り合いにでも紹介され、頭の片隅にいたぐらいの扱いだろう。
「あぁ、失礼しました。お綺麗な二輪の花に見惚れ、ご挨拶を忘れていましたね。僕は、守井 鷹也といいます。静香は、少し気が強いですが、優しい子です。仲良くしてくださいね」
鷹也という名前は、そうあるものなのだろうか?
「はい。私達、もうお友達なんです」
静香さんの腕を取り、一華は仲の良さを、お兄様にアピールするようだ。
苦笑するお兄様は、私に視線を戻し、視線は鋭いまま口元に弧をえがく。
まるで、獲物を狙うハンターのようだ。