モウセンゴケ〜甘い香りに誘われて

思わず視線を逸らし、静香さんと一華を見ると、静香さんは、私をじっと見つめている。

「静香、そこのお友達にお前の知人を紹介しておいでよ」

「私が?優香さんと仲良くなりたいんだけど」

静香さんを手の甲で追い払う仕草は、別人だというのに誰かに重なる。

「はぁっ…わかったわよ。優香さん、今度は東雲の御曹司のことでもお話ししましょうね」

「はい。よろしくお願いします」

「じゃあ。一華さん?知人を紹介してあげるわ」

未練がましく後ろを振り向く一華は、静香さんのご友人の座もほしいらしく、渋々とついて行った。

「よっ、あの夜以来だな」

「覚えてたんですね」

私の頬を指の背で撫で笑う。

「あんないい夜の女は、なかなかいないからな」

「そうですか」

頬を撫でる指と、声を聞いているだけで、体は、あの夜を思い出してしまうらしい。

ゾクゾクとするいい声に、体の奥底が蠢いているようだ。

「東雲の婚約者だって⁈」

「はい、先月の頭に」

「ふーん。このまま俺とまたしようぜ」

「…いいえ。私は彼の良き妻になると約束しました。あなたとの夜は、私の慰めになり心を助けてもらって感謝しています。それだけで、これからはあなたとは何もありません」
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