モウセンゴケ〜甘い香りに誘われて
「ほんと、相変わらずはっきりしていて、気持ちいい」
相変わらずとは?
酔った時にでも、何か言ったのだろうかと、覚えてもいない記憶を探る。
「お前は、俺を魅了したただ一人の女だ。頭の中バカになりそうなぐらい気持ちよかったのは、俺だけか⁈。お前も、俺を忘れられないはずだ」
素早い動きで腰を抱かれ、耳元でハスキーな、いい声で囁いて、スパイシーな香りだけを残して離れていった。
ゾクリと体が期待して目が潤む。
だが、鷹也さんを裏切ることはしない。
彼の妻となると決めたのだから、欲望になど負けまいと、彼に抱きつきそうになる両腕を抱きしめる。
「お前は俺の女だ」
おでこを小突いて、彼は、背を向けてどこかへ行き、やっと、体の強張りが緩んだのだ。
鷹也さんと結婚した後も、こうして彼と会う可能性があることに気がついて、心がドキドキとして止まらない。
これは、彼に会える嬉しさからなのか?
それとも、制御できなくなりそうな不安からなのか?
このドキドキがなんなのかわからないまま、一人でいると、静香さんがやってきた。
「少しいいかしら?」
「はい」
「ここでは詳しいことは言えないけど、どちらの鷹也お兄様も信じてあけてほしの」