モウセンゴケ〜甘い香りに誘われて
「はい、静香さん」
「そんな呼び方いやよ。静香お姉さんって呼んで。ほら⁈」
「本気ですか?」
コクコクと頷かれ、期待の眼差しを裏切る訳にはいかず、大きく息をはいて勢いで呼んだ。
「静香お姉ちゃん」
「お姉ちゃん…お姉さんより、身内ぽくていいわね。それでいきましょう」
お姉さんと呼ぶはずが、勢い余って失敗したようだ。
「優香」
「はい、静香お姉さん…静香お姉ちゃん」
間違いを咎める視線に、言い直せばご機嫌に微笑まれ、つられて微笑んだ。
そこへ、守井 鷹也の腕に抱きついて一華が、ご機嫌でやってきた。
「鷹也お兄様、お遊びは、ほどほどにしないと、婚約者の方にふられますよ」
えっと、なったのは、一華だけではなく、私もだった。
何が、ただ一人の女だ、何がお前は俺の女だと、ムカついて、そこに水の入ったグラスを持って男にかけていた。
「優香、何するの…勘違いした義妹が私の為にしたことないです。怒らないでください」
一華は、自分の為に私が怒ったと勘違いして、ハンカチで男の顔にかかった水を拭き取ろうとしていた。
だが、その手を振り払い男は笑う。
「その嫉妬はもう一人の鷹也でもするのか?」