モウセンゴケ〜甘い香りに誘われて
「あなたに嫉妬なんてしていないわ。静香さん、ごめんなさい。失礼します」
背後から、一華が甲高い声で怒っているが、そんなことより、早く、ここから離れたかった。
嫉妬?
この感情が嫉妬なの?
惑わされたらダメと頭を振り、鷹也さんに電話をかけていた。
しばらくして、騒がしい中にいるらしい鷹也さんは、移動しているようで、電話口の声がはっきりとしてきた。
「もしもし、聞こえますか?」
『優香』
「会いたい、です」
『…今、どこだ?』
「ダイヤモンドホテルです」
『そこのどこだ?』
「…エントランスを出たところです」
『動くなよ』
しばらくして、そこに現れたのは守井 鷹也だった。
「まったく、じゃじゃ馬め」
濡れた髪を掻き上げる男を私は無視して、鷹也さんに電話をかける。
すると、なぜか目の前の男のポケットから振動音が鳴る。
えっと、思っていると、ポケットから出した電話に出る男の声が、電話口からも聞こえた。
「優香」
「うそ…鷹也さん」
前髪を崩して目を隠すようにおろした男は、紛れもなく東雲 鷹也さんだった。
「騙すようなことして悪かった」
なぜかわからないが、ホッとしているのか、涙が溢れて足元へ崩れていた。