モウセンゴケ〜甘い香りに誘われて

「もちろん。早速、契約してしまいましょう。一番早い日がいいですね」

「そんなに急がなくても私は、大丈夫ですよ」

「俺が待てない」

「えっ?」

先ほどの可愛いセリフといい、彼女のウエディングドレス姿を想像したら、勝手に体が動いていた。

彼女を抱きしめて、唇を甘く喰んだ。あの夜以来の柔らかな唇は、俺の欲情に火をつけ、唇を重なるだけでは止まらない。舌先でなぞり唇をこじ開けて、舌を絡めてキスしたあの夜を思い出し、滾ってくる。

彼女の顎をつたう涎を舐め上げれば、甘く感じ、欲望のまま彼女を連れ帰り、思う存分抱き潰すまで愛しあいたいと思う。

だが、僅かな理性で踏み止まり、そんな自分を褒めてやりたいものだ。

「早く結婚して、これ以上のことしましょう」

本当の東雲 鷹也として…

彼女と愛し合うのは、まだだと踏み止まる。

見合いの当日の、ばかな自分に言ってやりたい。

なぜ、こんな面倒なことを思いついたのだと。

あの時、義姉の方を断らせる為に送ったイモ男で行く必要はあったのだろうかと問いかけたい。

多分、そうしたのは、一夜だけの関係だったが、忘れられなかった彼女の本心を知りたかったのだと思う。

東雲に群がる害虫と、彼女は違うと思いたかった。
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