モウセンゴケ〜甘い香りに誘われて
数メール先で彼女を見つけた時は、ホッと胸を撫で下ろし、彼女に近寄った。
「まったく、じゃじゃ馬め」
必死になって女を追いかけて、振り回されるなんて初めてで、顔を背けた優香をどう扱っていいかわからずにいた。
恋愛の場数を踏んでいれば、こういう時にかける言葉も言えただろうが、何も思いつかないまま、優香が誰かにまた電話をかけだし、俺は、崩れた髪が目にかかり、髪を掻き水滴を飛ばしていると、携帯が振動する。
相手は、俺だったようだった。
「優香」
「うそ…鷹也さん」
電話にでながら、前髪を下ろし、東雲 鷹也として彼女の前に立った。
「騙すようなことして悪かった」
驚き顔には、涙が溢れていて、足元に崩れる優香を抱きしめる。
「守井は母方の姓だ。東雲でいると、いろいろと煩わしことだらけで、2つの名前と姿を使っていた」
「だからって…婚約者なのに」
「ごめん、本当にごめん」
ただ、泣きじゃくる優香に謝るだけ。
「…許さない。一生許さない。騙すなんて酷い。あなたに惹かれていても、鷹也さんを裏切りたくないのに、あなたのせいで、私の感情は振り回されて…よかった。あなた達が同じ人で…2人の人を好きになるなんてって、どうしようって…」