モウセンゴケ〜甘い香りに誘われて

あぁ…そうだった。
私から誘ったのだと思い出していく。

一つあけて座っていた男が隣に移動してきて、声をかけてきた。

「隣いいか?」

目が潤むほどのいい声だった。

「いいけど、それちょうだい」

男が飲んでいたお酒を奪って飲んだのだ。

怒鳴られても仕方ない行為を、この男は逆に心配してきていた。

「おいおい、一気に飲むと意識飛ぶからやめとけ」

「何も考えないで済むなら、それでもいい」

グラスを奪おうとする男から、グラスを死守しようとしたが簡単に取られていた。

「何があったか知らないが、酒に逃げても解決しないぞ」

「わかってるわよ。だ、げ、ど、もう、飲まないとやってられない。頑張っても報われないんだもの。私、これからどうしたらいいの?少しは、報われたいよ」

男に抱きついていた。

「はぁぁ…変なのに捕まったな。チッ…いい匂いさせて男に抱きついたら、どうなるかわからないのか⁈」

「お兄さんの方がいい匂いだよ。ねぇ、今晩、お兄さんの時間を私にちょうだい」

男から、漂う甘くスパイシーな香りと、ハスキーで甘い声が私を惑わしているようで、口から出ていた。

普段なら、絶対、こんな一夜だけの戯れなどしない。

「誘ってるのか?」
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