もし彼がここにいたら、僕を連れていってくれるのに。
第一章
 湯船に浸かって目を瞑った。

傷がしみる。じん、と、熱くなる。痛みは、こらえるしかないって、知っている。
鏡で、自分の体を見た。いつの間にか、いろんな痣が増えていて驚いた。
シャワーの熱い湯を頭からかぶる。
全部、このまま流れ出してしまえばいいのにな。





海を想わせるような、涼しい風の吹く日だった。
海になんて、行ったことないのに。

今日は、カフェのバイトだった。
両親はろくに働かないので、自分が欲しいものは自分で買うしかない。
注文を取って商品を運べばお金がもらえるなんて、なかなか良い条件だと思っている。

店に入って、制服に着替えた。

鏡の前で、笑ってみる。
その姿は、あまりにも不格好で。

素直に笑える人は、すごい。
上手く話せる人は、すごい。
相手を受け入れられる人は、すごい。

自分はできないことを、周りの人は簡単にやっている。
その事実に気づいてから悩んだこともあったけど
ちょっと努力してみたけど、
やっぱりできないものはずっとできない。

腹を括って、諦めていた。
でもたまに、苦しくなる。
それは、自分がどんなに役立たずな人間かを思い知った時だ。
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