もし彼がここにいたら、僕を連れていってくれるのに。
過去のことは思い出さないようにしている。自分の沢山の過ちと苦しみは、もう二度と思い出したくない。
それは、ずっと、真っ黒な箱に閉じ込めておくべきものだから。
学校に行った。
教室に着くまで、階段をだいぶ登らなければいけない。
クラスの女子たちが、エスカレーターをつければ良いのにと愚痴っていたが、
本当にその通りだ。
「今日からは、皆さんに物語を書いてもらいます」
え〜、と怠そうな声が聞こえてくる。
「短くていいんです。短編集にして、本にしたいと思っています。
共通のお題を出しますね、バラバラだと読みにくくなってしまうので。」
物語のお題は、『愛』だった。
自分の考える 愛
経験した 愛
愛とは、何か
それを、自作の主人公を通して読み手に伝えましょう、という概要だった。
「あのー、愛っていうのは、家族からの愛ですかー?動物見ててかわいーって思う時の愛ー?
それとも、恋してる時の、愛ですかー?」
語尾を伸ばすようにして質問した彼女に、先生は
「河上さんの思う愛でいいんですよ、それを物語で伝えて欲しいんです。正解はありません、一人一人個人の
思いを伝えられる物語を書いてくださいね」
と答えた。
家でやっても仕方がないので、いつも働いているカフェで原稿を書くことにした。
考えても考えても、なかなか答えは見つからなかった。
愛 愛 愛…あい あい…あい?
考えるうちに、あいって変だなとおもった。
だって、あいうえおの初の2文字を取っただけじゃないか。
その2文字をベースに物語を書けというのだ。
何だっけ、こういうの。
ゲシュタルト崩壊っていうんだっけ…
家族愛に関しては、全く思いつかなかった。
友達もいないので、これも手につかなかった。
動物も、可愛いと思ったことないし…
何も、コンクールなんかに応募するわけでもないので
それっぽいことを書いておこう。