もし彼がここにいたら、僕を連れていってくれるのに。
次の日。
もうこんな時間か、と短信が5を指した時計を見ていると、
後ろから声がした。
「あ、おはよう」
声の主は、昨日の彼だった。
おはようございます、と返すにはもう遅くて、
彼は無言で先を言ってしまった。
後悔した。
無視してしまった。
でも、昨日ちょっと喋っただけじゃないか、
あの人とはなんの関係もない。
そうやって、自分を諭した。
ゴールデンウィークと健康診断の代休で、学校は休みたっだ。
なんとなく、カフェに向かった。
交差点の前の、あのカフェに。
もしいたら、謝らないとなぁなんて考えていたら、まるで自分が来るのを待っていたかのように
彼は窓側の席にいた。
まさか。
考えすぎだろうか。
店に入ると、がらんとしていた。
店員はだらしなく椅子に座っていかにも眠そうな様子だったので、
隣にあったセルフレジで会計をした。
セルフレジなんてあったんだ。
やっぱり、近くにするべきだろうか、でも、なんだか気まずいしな。
でも、わざわざ遠くにするのも印象悪いし、と究極の二択を迫られる。
考えていると、
「こっちおいでよ、席。」
振り向いてそう言った彼は、やっぱり誰かに似ていると思った。
こう言われたら仕方がないので、彼の向かいの席に座った。
それから、ちょっと他愛のない話をした。
学校のこと、家族のこと、友達のこと。
彼はいろいろ質問してきたけれど、全部曖昧にしてしまった。
学校のことはともかく、友達もいません家族からは無視されてますだなんて
とても言うことはできなかった。
そしたら彼は、優しく笑って、
「そんなに隠さなくてもいいのに」
とでも言いたげな口調で
そっか、そうなんだね、と言った。
しかし。自分だけ答える側なのも悪いと思ったので、
「仕事、何してるんですか?」
「仕事?」
3秒ぐらいして、答えは返ってきた。
「写真家、かな。」
「なんの写真撮ってるんですか?」
「なんでも撮ってるけど、人はよく撮るかな、あと風景とか」
元々決めていて、言ったようなセリフだった。
「取った写真、見て見たいです」
「…」
じっと、見つめてくる。
何を考えているのか、見当もつかない。
「良い写真撮れたら、見せてあげる」
そう言って、笑った。
「そういえばさ、なんていうの、名前」
話を逸らすようにして訪ねてきた。
こんなに喋ったのに、よく名前を出さないでいられたなぁと過去の自分に驚いた。
どうしようか。
なんて言おう。
名前はいつも、苗字で呼ばれていた。
親には、そもそも名前自体を読んでもらった覚えがない。
「苗字だけでも、良いからさ。」
見透かされたような気がした。
考えていることを。
「小夜」
「さよ?」
「小さな夜で、小夜です、」
可愛い、と彼は呟いた。
それが、思わず言ってしまったのか、彼の意思で言ったのかわからなかったから
黙っていた。
「連絡先、繋ごうよ」
「え、」
「メッセージでも、LINEでもなんでも良いよ?」
連絡先なんて、初めて聞かれた。
困惑して、暫く固まっていると、
ごめん、やだったら良いよ、と言われた。
別に、嫌じゃない。
嫌じゃないなら、何?
嬉しいの?
なんで?
そもそもSNSをやっていないので、繋ぐものがないんですなんて言ったら、
友達の有無を問われそうで
嫌じゃないけど
嬉しいけど
できないって、伝える言葉が見つからない。
沈黙が続いた後、
じゃあ、またね、と言って彼は出ていってしまった。
隣の席には、懐かしい香りが残っていた。
夜。
スマホの設定画面と格闘した。
デジタルに疎いので、何から何まで全くわからなかった。
普通なら
いつもなら、諦めていたはずなのに。
設定方法をネットから引っ張って、何とか
アカウントを作ることができた。
連絡先の欄は真っ白で、連絡先を追加する
というボタンが点灯していた。
この時は、浮かれていたのかもしれない。
もうこんな時間か、と短信が5を指した時計を見ていると、
後ろから声がした。
「あ、おはよう」
声の主は、昨日の彼だった。
おはようございます、と返すにはもう遅くて、
彼は無言で先を言ってしまった。
後悔した。
無視してしまった。
でも、昨日ちょっと喋っただけじゃないか、
あの人とはなんの関係もない。
そうやって、自分を諭した。
ゴールデンウィークと健康診断の代休で、学校は休みたっだ。
なんとなく、カフェに向かった。
交差点の前の、あのカフェに。
もしいたら、謝らないとなぁなんて考えていたら、まるで自分が来るのを待っていたかのように
彼は窓側の席にいた。
まさか。
考えすぎだろうか。
店に入ると、がらんとしていた。
店員はだらしなく椅子に座っていかにも眠そうな様子だったので、
隣にあったセルフレジで会計をした。
セルフレジなんてあったんだ。
やっぱり、近くにするべきだろうか、でも、なんだか気まずいしな。
でも、わざわざ遠くにするのも印象悪いし、と究極の二択を迫られる。
考えていると、
「こっちおいでよ、席。」
振り向いてそう言った彼は、やっぱり誰かに似ていると思った。
こう言われたら仕方がないので、彼の向かいの席に座った。
それから、ちょっと他愛のない話をした。
学校のこと、家族のこと、友達のこと。
彼はいろいろ質問してきたけれど、全部曖昧にしてしまった。
学校のことはともかく、友達もいません家族からは無視されてますだなんて
とても言うことはできなかった。
そしたら彼は、優しく笑って、
「そんなに隠さなくてもいいのに」
とでも言いたげな口調で
そっか、そうなんだね、と言った。
しかし。自分だけ答える側なのも悪いと思ったので、
「仕事、何してるんですか?」
「仕事?」
3秒ぐらいして、答えは返ってきた。
「写真家、かな。」
「なんの写真撮ってるんですか?」
「なんでも撮ってるけど、人はよく撮るかな、あと風景とか」
元々決めていて、言ったようなセリフだった。
「取った写真、見て見たいです」
「…」
じっと、見つめてくる。
何を考えているのか、見当もつかない。
「良い写真撮れたら、見せてあげる」
そう言って、笑った。
「そういえばさ、なんていうの、名前」
話を逸らすようにして訪ねてきた。
こんなに喋ったのに、よく名前を出さないでいられたなぁと過去の自分に驚いた。
どうしようか。
なんて言おう。
名前はいつも、苗字で呼ばれていた。
親には、そもそも名前自体を読んでもらった覚えがない。
「苗字だけでも、良いからさ。」
見透かされたような気がした。
考えていることを。
「小夜」
「さよ?」
「小さな夜で、小夜です、」
可愛い、と彼は呟いた。
それが、思わず言ってしまったのか、彼の意思で言ったのかわからなかったから
黙っていた。
「連絡先、繋ごうよ」
「え、」
「メッセージでも、LINEでもなんでも良いよ?」
連絡先なんて、初めて聞かれた。
困惑して、暫く固まっていると、
ごめん、やだったら良いよ、と言われた。
別に、嫌じゃない。
嫌じゃないなら、何?
嬉しいの?
なんで?
そもそもSNSをやっていないので、繋ぐものがないんですなんて言ったら、
友達の有無を問われそうで
嫌じゃないけど
嬉しいけど
できないって、伝える言葉が見つからない。
沈黙が続いた後、
じゃあ、またね、と言って彼は出ていってしまった。
隣の席には、懐かしい香りが残っていた。
夜。
スマホの設定画面と格闘した。
デジタルに疎いので、何から何まで全くわからなかった。
普通なら
いつもなら、諦めていたはずなのに。
設定方法をネットから引っ張って、何とか
アカウントを作ることができた。
連絡先の欄は真っ白で、連絡先を追加する
というボタンが点灯していた。
この時は、浮かれていたのかもしれない。