もし彼がここにいたら、僕を連れていってくれるのに。

第2章

あれから2ヶ月ほどが経った。
彼とはほぼ毎日会っていた。
約束はしていないのに、彼はいつも自分の来る前に
座って、待っていてくれた。

今日も、
窓際の席で話した。
彼もあまり喋らないので、話をしたと言うよりかは、過ごしただけなのかもしれない。
でも、それは一つの楽しみだった。唯一、安心できる場所になっていたのかもしれない。
彼の存在が、自分は一人じゃないということを証明してくれる気がした。

いつものカジュアルな服装とは違い、今日はなにかとスポーティーな格好だった。
纏う雰囲気も昨日までとは違っているのは勘違いかもしれない。
でも、カモミールの香りは、いつもと変わらなかった。

「ちょっとさ、来て欲しいところがあるんだけど」
彼は急に振り向いて、ゆっくりと言った。
「別に、いいですけど…」
自分を連れていきたい場所なんて、どこにあるだろうか。
いつも邪魔にされて、或いは軽蔑の眼差しを向けられる。
今までそうだったから余計、動揺してしまった。
荷物を持って行こうとしたら、置いていっていいと言われた。

連れて行かれたのは、カフェの一つ上の階の、
開店前の店が並んでいるフロアだった。
何をしたいのだろうか。
今日は休店日らしく、張り紙も貼っているから余計に
何をされるのかわからなかった。







壁に体を押し付けられる。
唇に何かが触れた。

唇と唇が触れ合って、口の中に何かが入ってくる。優しく舐められて、鳩尾の奥が熱くなる。
気持ちよかった。口だけで、こんなに気持ち良くなれるんだ、と初めて知った。
何が、どうなっているんだろう、と理解が追いつかない。
彼は、何も言わなかった。ただ、怖くないように、と背中を撫でてくれる。
口で感じる気持ち良さにまた苦しくなって、
彼の体を抱きしめた。
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