鉢かぶり姫〜異形姫は平安貴公子に永遠の契りで溺愛される

序の巻

 昔むかし、交野国(かたののくに)というところに、とても仲睦まじく暮らしている御夫婦がいらした。

 備中守(びっちゅうのかみ)である夫君(おっとぎみ)は財産に恵まれており、奥方は類い稀なる(たぐいまれなる)美女。

 お二人は、 “望月の欠けたることもなし” といった幸せな暮らしぶりであったが、ただひとつ、御子に恵まれないことが悩みであった。毎日、お二人は熱心に “観音様” に祈りを捧げていた。

 やがて、お二人の願いが通じたのか、奥方は懐妊し、月満ちて生まれたのは、とても可愛い姫君であった。



【註】
交野国)現在の大阪府交野(かたの)市、寝屋川市、枚方(ひらかた)
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