鉢かぶり姫〜異形姫は平安貴公子に永遠の契りで溺愛される

ふたりを別れさせるには……?

 大蔵から、宰相君の態度について聞かされた母君は、ぞっとした。

「奥方さま、私に良い案がございます。要は、宰相さまから引き離せば宜しいのですから、鉢かぶりに思い知らせてやればよいのです」

「思い知らせる?」

「お前ごときが、山蔭卿さまの御曹司の嫁になれると思うなよ、とわからせるのです」

「どうやって?」

 大蔵の提案は、“ 嫁比べ (嫁バトル)” をしてはどうか? というものだった。
 兄君たちの奥方たちは、三人とも良家の姫君であり、美貌、教養、さらには持参金といったものも、超一流の方々である。

「鉢かぶりも、兄君様たちの奥方様たちと比べられては敵わない、とコソコソ出て行くことでしょう」

「それは良い考え!」

 母上は喜びかけたが、()()と冷静になる。
(でも、もしかして、あの化生は本当に恐ろしい妖怪で、若君は取り憑かれているとしたら?)

鉢かぶりが(あやかし)の類なら、勝負に何らかの妖術を使って、難なく払いそう(クリアしそう)である。

「ご安心を。明石によると、あの者は妖などといった恐ろしい者ではなさそうです。むしろ、いかにも優しげで」

 大蔵は息子との会話を思い返すーー

『鉢かぶりどのを “姫” と宰相さまが呼んでらっしゃるのですが、無理もないかなーって俺も思うんです』

『姫? とな?』

『一度じっくりと、鉢かぶりどのを見てごらんなさい。なんつうか、品があって美しくて。歩く姿なんて、かぐや姫ちゃうか? って見惚れてしまいますよ』


 あのとき、息子はうっとりとした表情で褒めちぎっていた。
(まさか左馬介も、鉢かぶりに妖術で(たぶら)かされた?)

 怖い顔をして黙ってしまった大蔵を見て、母君は焦ったように声をかけた。

「どうしたのじゃ? 大蔵?」

「奥方さま、私も不安になってきました。やはり、鉢かぶりは妖術使いかもしれませぬ」

「そうか……。しかし、私は決めました。嫁比べ、やりましょう。鉢かぶりの妖術、若い男に通用しても、女に通用するとは限らぬではないか」

「たしかに! しかと見届けたい気もします」

 三人の嫁たちは妖並み(妖怪レベル)に強い。身も心も、ついでにアクも。皆、自分がこの世で最も優れた上品(じょうぼん)と自負している姫たちなのだ。

 妖には妖をぶつけるのが最善かもしれぬ、と母君は内心ほくそ笑むのだった。
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