鉢かぶり姫〜異形姫は平安貴公子に永遠の契りで溺愛される

鉢が……!

「何処へ行かれる?」
「いっ、いいえ。何処にも」
「ここを出て行かれるおつもりですか? ひとりでは行かせませんよ」

 宰相君は上体を起こし、深々と頭を下げた。
「ふたりで屋敷を出て行きましょう。前から決めていました。どうやら、あなたはひとりで思い詰めていたのですね、申し訳ありません」

「いけません! 私なんかのために……」
 姫は、それ以上何も言えなくなった。

「あなたのお気持ちはわからないが、私はあなたと最初に契りを結んだ日から、あなたをただひとりの妻と決めている。たとえ死んで地獄に落ちようとも、あなたと添い遂げるつもりだ」

 宰相君の言葉は激しいが、態度や表情は穏やかで自信に満ち溢れていた。

「宰相さま!」
 姫はがっくりと、その場にくずおれた。
 愛する人にここまで言わせてしまい、申し訳なさに涙がとめどなく溢れてくる。

「元気を出して下さい。これから私たちが行く道は、険しいものかもしれません。でも、何があろうと私を信じて下さい。決してあなたと離れることはない」

 宰相君は誓うように言ってから微笑んだ。
「なぁに、私は野草を食べたり泥水をすすってでも、あなたにご不自由はさせませんよ。ご案じ召されるな」

 ふたりは手を取り合い、粗末な臥所(部屋)から外に出た。
 その瞬間。
 姫の頭の鉢が、ぱっくりと二つに割れた。
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