鉢かぶり姫〜異形姫は平安貴公子に永遠の契りで溺愛される

大逆転

 静まり返ってしまった場を何とかしようと思われたのか、山蔭卿が姫に声を掛けた。
「これはなんとしたこと! もう “鉢かぶり” などとは呼べませぬな! 姫、さあこちらへお越し下さい」

 卿は手招きし、嬉しそうに「ここ! ここ!」と、自分の横を指す。まるで子供がはしゃいでいるようである。

 姫は恥ずかしそうに微笑んで、「私はこちらで」と、主殿の座敷より一段低い、破れ筵の方へ行こうとした。
 すると、宰相君が急ぎ足で姫の近くまで来た。

「姫、遠慮なさらず。父上も、ご自分の隣に来てほしいのですよ」
 彼は誇らしげに言った。

 宰相君と姫が並んで立つ姿は、さながら一対の御仏(みほとけ)がこの世に現れたようで、まぶしいほどである。

 卿と北の方の間に姫が座ると、卿は()()()()な顔で周囲に言い聞かせるように説明した。
「このような方を下座に座らせるわけにはいかんだろう!」

 チッ、といちひめが舌打ちし、鼻白んだ顔つきで隣にいるにのさまに言った。
舅殿(しゅうとどの)の現金なこと。引出物に目が眩んだのでしょうね」

「義姉上様、言いたくないけど、あの引出物を前にしたら平常心でいられないわ。上座にお通しするしかないですわ」

 ふたりが頷き合っていると、さんのみやが「でも、お義姉様がた」と、口を挟む。

「舅殿は引出物だけじゃなくて、鉢かぶりどののお美しさにも目がくらんでいるんじゃないかしら?」
 彼女はそう言って、ウヒヒと笑った。

 ふたりの義姉たちは恐ろしい顔をして、さんのみやを睨みつけた。

(一番認めたくない事だから、敢えて触れないようにしていたのに)
(さんのみやは空気が読めないの? それとも、嫌がらせのつもりでわざと言っているのかしら)

「申し訳ないけど、お二方は年齢でも美貌でも敵いませんわよね。私はまだ若いからアレだけども」
 涼しい顔でズケズケ言う、無敵のさんのみやである。
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