鉢かぶり姫〜異形姫は平安貴公子に永遠の契りで溺愛される

次のバトル

 いちひめとにのさまの顔色が真っ青になった様子を見て、さんのみやは(ヤベ! 言いすぎたかしら。けど冗談を真に受け激をこ(げきおこ)なんて、頭が固いわねえ)と思い、笑って取りなすように言った。
「で、お義姉さま方。これからどうなされます?」

 いちひめが答える。
「見た目の美しさなどというものは、生まれつきのもの。それを競うとは、まことに()()なり。本当に競うべきは、己が努力して得た能力でしょう」

「つまり、歌や楽器演奏の才で競うという事ですか?」
 にのさまが確認すると、いちひめは大きく頷いた。

「えー。私は歌も楽器も自信ないなあ。()も下手だし」
 さんのみやが無邪気に言う。

「あなたはまだ()()のですから、やらなくていいです」
「そうね、いちさまと私に任せておきなさい。あなたはそこで、ただ見てればよろしいのよ」

 義姉たちは、さんのみやに嫌みっぽく返事する。言外に、『阿呆はすっこんでろ』という意味を込めて。

 さんのみやは思った。
(鉢かぶりは、歳は私と同じくらいかしら。身元不詳の下衆な生まれの(むすめ)っぽいから、この学力テストは最初からお話にならないんじゃないの。なんかちょっと気の毒)

 いちひめは無言で立ち上がると、素早い動きで山蔭卿の御前まで進んだ。
 その時には酒宴が始まっていて、山蔭卿は既に相当きこしめしており(飲まれていて)、ご機嫌であった。

「姫のような方が傍でいらっしゃると、酒の肴など要りませぬな!」
 いちひめの口から、思わず「ケッ!」と声が漏れる。

「いちひめ、どうかしたか?」
お舅さま(おとうさま)、これより嫁比べは次の競技(テスト)に移らせていただきたいのですが。歌と楽器演奏など、いかがでしょう」

 彼女は、山蔭卿ご夫妻と姫を交互に見て返答を待つ。優しげな微笑を浮かべているが、もちろん目は笑っていない(マジである)

 にのさまも立ち上がって、いちひめに続いた。自信満々の態で。



【註】
 をこ)おろかなこと。馬鹿馬鹿しいこと
 下衆)身分の低い者。素性の卑しい者
 きこしめす)飲む、食べるの尊敬語
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