鉢かぶり姫〜異形姫は平安貴公子に永遠の契りで溺愛される

姫の腕前

(任せていいのですね?)
不束(ふつつか)ですが、宰相さまに恥をかかせることはないと思います)
(安堵しました。楽しみです)
(心を込めて演奏いたします)
 姫と宰相君は目で会話する。

 ふたりの様子を、見るともなく眺めていたさんのみやは、びっくりした。
(すごい信頼関係にあるのね。ふたりの会話が聞こえてくるようだわ)

 さんのみやは、夫に視線を移した。
 彼女の視線に気づいたというわけでもないのだろうが、三男の君はこちらを見てきた。そして、大げさにため息をついて見せる。さんのみやもウンウンと頷き返した。

(よかった。私と三男さまは、まだギリ通じ合っているわね。それに引き換え、頭領の君と二の兄君ときたら)

 いちひめの夫である頭領の君は、だらしなく頬杖をついて見ている。興味がないのか、つまらなさそうだ。
 二の兄君に至っては、腕組みをして目を閉じている。完全に眠っているとしか思えない。

(お二人とも、妻であるお義姉様(おねえさま)方に全く興味がないご様子だわ。私と三男さまは、ああならないように、今日から心を入れ替えなくちゃ)

 さんのみやは視線を姫に戻す。
 姫は立ち上がり、広間の中央に進み出た。それだけの行動なのに、さんのみやは彼女に釘付けになった。

 姫は、和琴の前に座ると、姑や義姉たちに深々とお辞儀した。
 それを合図に、母君が鼓をポンと鳴らす。いちひめの琵琶が、ジャララーンと鳴る。それに合わせ、にのさまの笙がブワーと響く。
 一瞬、音が途切れた時、姫の和琴の演奏が始まった。

(こ、これは!)
 いちひめは動揺を隠せない。
(う、う、うますぎるわ!)
 にのさまは、笙を下ろし膝の上に置いた。

 母君は、ご自分の鼓の音がいつもより良い音に感じられ満足していたが、それが姫の演奏のおかげだと途中で気づいた。
 いちひめは、なんとか最後まで和琴に合わせ演奏を終えたが、にのさまは途中で演奏を放棄した。

 演奏を終えた姫が、
「稚拙で恥ずかしゅうございます」と言うと、母君は、「とんでもない!」と叫んだ。
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