俺が君を守ってやる〜御曹司の執愛はどこまでも深く〜
口にはしないが、私の考えていることなんてお見通しだろう。彼は苦笑いを浮かべながら私の頬を撫でてきた。

「香奈美はもし知っていたら逃げただろう? 肩書きで離れて行っただろう?」

「あ……、うん。そうかもしれない。一社員が話していい人じゃないし」

「だから容易に言えなかった。俺にとっては肩書きじゃなくて俺自身を見てくれる存在だし、肩書を知って喜ぶ女じゃないだろ。だから逃げられないようにしなきゃと思ってた」

今思えば確かに彼の着ているスーツは量販店の物とは少し違う。サイズも布も彼にぴったりだ。それにマンションも借りてるといいながらかなり自由だった。車だって……と考えれば考えるほど一社員とは少し違っていたのかもしれない。

「こっそりと社長業務を勉強していたから忙しかったのもある。それに代替わりするにあたって実力を見せるために海外進出することになった。今はとにかく目の前のことを着実に固めていかなければならないんだ。でもそれよりも香奈美とのことをちゃんとしたかった。俺が香奈美を1番大切にしたいから。守っていきたいから。だから……結婚をやめるとは言わないでくれ」

いつもの自信に満ち溢れた彼とは少し違い、彼は私の頬を撫でながらも不安そうに答えを待っていた。

「本当に私でいいの? 後悔しない? 私は、ただの社員だよ。何も秀でたものはない。あなたの隣にいていいか分からないの」

「俺が隣にいて欲しいと望んでいる。これが全てだ」

「私には何もないよ。それでもいいの?」

なかなかイエスと言えない私を彼は根気強く押す。

「俺には香奈美しかいない。香奈美しかいらない。どうしても社長の俺が嫌なら、俺はこのまま社員でいる覚悟は出来ている。優秀な社員は沢山いるんだ、身内が継がなくてもいい」

「そんな……。許されるわけないです」

社長の代替わりが一般社員の耳にまで入っているのに今更辞めるなんてありえない。彼だって跡を継ぐためにたくさんの努力をしてきたのだろう。それを私が無にしていいわけがない。
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