俺が君を守ってやる〜御曹司の執愛はどこまでも深く〜
ゴシゴシとハンカチで目を擦ると藤代さんはその手を優しく止めてきた。

「そんなに擦ってはダメだ」

「っうぅ……」

「わかった。もう心配はいらない」

いつの間にか彼は私の隣にきており、そっと抱きしめられた。背中をさする彼の手が優しくて、私はますます涙が止められなくなっていた。
昨日家を出てきてからこれからのことを考えると不安で仕方なかった。だから泣きたくても泣けなかった。職場にだってこんな情けない人間だと思われたくなくて弱いところを見せられなかった。
それでも一度こぼれてしまった涙はもう止めようがなかった。
藤代さんにだってこんな自分を知られたくなかった。いつでも頼られるしっかりものの存在のままでいたかった。

「ご、ごめんなさい」

「謝る必要はない。泣きたい時には泣けばいい。我慢することはない」

彼の言葉とは裏腹に私の背をさする手は大きくて優しくて、安心感を与えてくれた。今だけはもう少し泣かせてください……。
ハンカチを握りしめ私は丸くなり、その私を包み混むように抱きしめてきた彼の腕の中は今まで感じたことのないものだった。
どれだけの時間こうしてくれていたのだろう。
ハッと気がついた私はもう顔を上げたくても恥ずかしくてあげられない状態になっていた。
泣き止んだことに気がついたのか、藤代さんの声が私の耳に聞こえてきた。

「今日から住むところに困っているんだろう? 俺のところに来ないか?」

「え?」
 
驚いたあまり私は彼の腕の中から顔を上げた。
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