俺が君を守ってやる〜御曹司の執愛はどこまでも深く〜
「作るって言ったのに手抜きですみません」

「これが手抜きなのか? 中丸さんのハードルはだいぶ高いんだな」

私はパエリアをよそうと彼の前に置いた。それを受け取るとすぐに「いただきます」と言い食べ始めてしまう。彼の反応が心配で私の手は止まったままで見入ってしまった。

「うまい!」

「本当ですか?」

少し身を乗り出すようにして声を上げてしまう。

「あぁ、店で食べるパエリアよりもなんだか馴染みのある味がする。すごくうまいよ」

「あ、きっとカレー粉だからかと……」

サフランなんてないから、黄色っぽい色を出すために使ったカレー粉がきっと馴染みのある味と思うのだろう。ちょっと恥ずかしいが彼に受け入れられたようでホッとした。彼はあっという間に食べ、またおかわりしようとするので私がお皿を受け取ろうとする。

「そんなことしなくていい。作ってくれただけでもありがたいんだ。中丸さんもゆっくり食べるといい」

私がよそらなくてもいいの?そういえばさっきも何も言わないのに皿やカトラリーを準備してくれた。当たり前のように私に頼らない。そんな当たり前のことなのに今まで忘れていた自分にうんざりした。

「あのさ、さっきからスマホが光っているけど着信じゃないのか?」

彼に言われ、カウンターを振り返ると今も光っている。私が近づくと画面に悠真の名前が表示されていた。今日も朝から何回かメッセージが来ていた。既読もしなかったから痺れを切らして電話をかけてきたのだろう。
電話に出ない私を藤代さんは不思議に思うのか、出てもいいよと声をかけられる。

「……いいんです」

「もしかして例の彼か?」

私は無言で頷いた。家を出てきたのはいいがあのマンションは私名義。ライフラインの支払いだって私の口座からになっている。だから彼には出ていってほしいが直接話すのが怖い。もう彼に会いたくない。でもどうしたらいいのかわからない。

「別れるつもりなんだよな?」

「はい」

それだけは即答できる。悠真とまたやり直したい気持ちはこれっぽっちもない。温泉が引き金だったが、今冷静になってみると彼の本性を気付かされ復縁なんて考えたくもない。
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