俺が君を守ってやる〜御曹司の執愛はどこまでも深く〜
「お邪魔します」

ブラックのスーツに濃紺のネクタイをし、チェスターコートを着た男性はまさしくみるからに弁護士だった。もちろんバッチが輝いているのもあるのかもしれないが、それ以上にどっしりとした貫禄があった。

「中丸香奈美です。よろしくおねがします」

「そんなに構えないで。こいつからの頼みだから気にしないで。これお土産。うちの妻が気に入ってる店なんだ」

「こいつの奥さんは弁護士事務所で一緒に働いているんだ」

「職場恋愛はいいもんだよな」

なぜか藤代さんに同意を求めるが、視線が左上を向き同意とも違うともわからない反応だ。すると咲坂さんは表情を崩し笑い始めた。

「時間もないから初めていくね。さっき晴臣からあらかた聞いたけど、もう一度教えてほしい。あと、今後の中丸さんの希望も」

忙しい合間を縫ってきてくれたのだろう。私はできるだけ簡潔に今までの話をした。結婚前提の同棲であったことや貯金を彼がする前提で私が生活費を出していたこと、家事を全てこなしていたこと、彼が浮気をしていたこと、今もメッセージや電話が途切れないことなど。咲坂さんからは日常生活についても聞かれ、それはモラハラだなと小さな声でつぶやかれた。やはりそうなんだ、と今更実感した。
咲坂さんは私のスマホも確認し、悠真からのメッセージを自分のパソコンに転送した。これからも彼からきたものは転送するよう指示があった。

「ひとまず彼にマンションから退去をさせるように動く。きっと納得できずに中丸さんに連絡が来るだろうけど出なくていい。職場に来ることも考えられる」

それを聞き私は背筋が凍る。するとふっと私の隣にきた藤代さんが私の背を優しくさする。

「警備員に気をつけるよう話しておこう。それに仕事の往復も俺と一緒にしよう」

「でも藤代さんに今以上迷惑をかけてしまうことはできないです」

「何言ってるんだ。乗りかかった船だ。最後まで君を助けるよ」

「晴臣がこう言ってくれているんだからここは頼ったほうがいい。近くに男がいるだけで牽制になるからね」

咲坂さんは色々注意することを説明するとすぐに動くべく職場に戻って行った。
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