俺が君を守ってやる〜御曹司の執愛はどこまでも深く〜
マンションに入り、エレベーターの中でも無言のまま。さっきまではいつもと同じように笑顔でいたはずなのにどうしたのだろう。

24階に着くとそのまま玄関のキーも開け、中に入る。
するとその場で急に彼に抱きしめられた。
何が起こったのかわからず私は立ち尽くしてしまった。
背の高い藤代さんに囲い込まれるように抱きしめら、突然のことに私の心臓はこれでもかというほどにバクバクとしている。

「ごめん、昨日の今日でこんなことを言ったら君を困らせてしまうとわかっているんだ。でもこのままだと君は出ていこうとするだろう。ずっとここにいて欲しい」

どういう意味なのだろう。昨日も同じようなことを言われてから私の頭の中でずっと考えていた。自分勝手な解釈をしてしまいたくなる。私が押し黙っていると、彼の腕に少し力が込められ、先ほどよりもさらに抱き寄せられた。

「俺は君が好きだ。だからこのままずっとここにいて欲しい。あいつとのことがまだ完全に解決していないうちにこんなことを言うのはどうかと思う。でも、そんなことを言っているうちに君にここを出ていかれたらと思うと気が気でいられない。ただの同僚になんて戻れないし、フリーになって他の誰かに取られるなんて考えたらいてもたってもいられなかった」

まさか、藤代さんが私のことを?!
あまりのことに私は言葉が出てこなかった。
美和に藤代さんが私に気があるのでは?と言われた時、もしそうだったらと思うと正直なところ心が浮き足だった。でもそんな都合のいい話はないと自分で気持ちを飲み込んだ。

「中丸さんにとってはただの同居だっただろう。でも俺は誰彼構わず家に入れるわけではない。君だったから助けたいと思った。彼がいることは知っていたから諦めていたんだ。それが別れたと言われ、正直なところチャンスだと思った。君が困っているときにチャンスだなんて酷い男だろ?」

「そんなこと……」

「でも本当のことだ。君にあの日声をかけたのは本当に偶然とはいえ俺にとってターニングポイントになった」

狭い玄関で彼に抱きしめられたまま頭上から聞こえてくる彼の声はどこか切なく、胸の奥に響いてくるものだった。
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