四月一日の花嫁
花婿に「綺麗」と褒められること、それは花嫁にとって幸せな瞬間の一つのはずだ。綺麗になるために花嫁は準備を怠らないものである。しかし今、藍の胸の中にはさらに虚しさが積もっただけだった。

「ありがとうございます」

淡々とお礼を言った後、藍はもう話すことはないと言わんばかりに彼から目を逸らした。藍を纏う雰囲気で察したのだろう。彰人はそれ以上は何も言わずに控え室を出て行った。ドアが閉まった後、藍は大きく息を吐く。

「そんなリップサービスなんていらないのに」

藍と彰人は付き合っていた期間はゼロに等しい。何故ならば、二人は親の都合で結婚することになったためである。



藍の家は曽祖父の代から大きな会社を経営している。全国的にも有名な会社で、藍は何不自由なく育った。世間から見れば恵まれたお嬢様である。

しかし藍は自立心の強い人に成長した。親の力を借りずに就職し、一人暮らしをしたい。それが彼女の夢であり、その夢を彼女は叶えた。
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