四月一日の花嫁
会社が潰れてしまえば、両親だけでなく何千人もの社員が路頭に迷うことになる。何千人もの未来を切り捨てるという選択を藍は選ぶことができなかった。

政略結婚なのだが、結婚前に一度は会うべきだろうと料亭での顔合わせが行われた。藍は窮屈な振袖を着せられ、夫となる彰人と会った。

(最悪だわ……)

人を愛することを知らないまま、藍は目の前で話しかけてくる彰人と結婚しなくてはならない。そして子どもを産まなくてはならないのだ。その生活を想像するだけで吐き気が込み上げてくる。目の前に並べられた料理に手をつけられなかった。

藍の父は援助してもらえることに上機嫌になり、彰人の両親と結婚式のことについて話している。結婚式も自分の意思で決められないのか、と藍は泣きたくなるのを堪えた。

「結婚式は温かい春に挙げるのが良さそうですね」

そう彰人の父が言った時だった。藍はあることを思い出す。春には一日だけ特別な日があることを思い出したのだ。
< 4 / 6 >

この作品をシェア

pagetop