オタクな生徒が俺を「柊弥たそ」と呼び、讃え崇めてきます。
変わった子
高校教師になって、5年目の春。
「…え、何?」
ある日の放課後。
今年入学してきた女子生徒に、物凄く見つめられているのだが………。
「こ…これは…!! 凛々子殿、拙者的…大事件でござる。この衝撃…『きらめき☆フォーエバー』の柊弥たそが目の前に現れたが如く……!!」
「分かるぞ、分かるぞ!! 小夏殿!! しゅ…柊弥たそが目の前に…これは…推しでは無くてもしんどい……」
「寧ろ、野生の公式まである……!!!!!」
「………」
この2人は、何を言っているのだろうか。
これは…何語?
日本語なの?
全く理解ができない。
「神の導きでござる。…ところで、凛々子殿。拙者たちの行く先を、こちらの柊弥たそにお伺いを立てるのは如何だろうか」
「うむ、名案だ。柊弥たそにお伺いするのは恐れ多い話だが…こんなチャンスも滅多に無い話だからな」
女子生徒2人は同時に頷いて、俺の前に土下座をした。
「え?」
「…柊弥たそ。つかぬことをお伺いするのだが…文芸部の部室とやらはどこか教えては貰えませぬか」
「文芸部では、推しを愛でる小説の執筆が出来ると聞いてだな…小生たち、入部をしたい所存である」
「………………」
これは……かなり濃い生徒が入って来たな。
今までに出会ったことの無いタイプ。
クセが強すぎる。
何を言っているのか殆ど理解できないが、この2人が文芸部に入部したいということは分かった。
「あの…な、柊弥たそって誰か知らないけれど。分かったから、取り敢えず立ってくれない? 俺が土下座させているみたいだからさ」
「むむ、これは失敬」
2人は立ち上がり、俺に向かって同時に一礼した。
「いや~駄目ですな、小夏殿。小生たち、土下座が生き甲斐ですからな」
「推しの前では土下座をするのが、当たり前でござる」
クックック、と笑う2人。
そんな笑い方をする人も初めて見た…。
26歳だけど。
今までこんな感じの人と出会ったことが無い。
「えっと、俺は大井拓也。ここの国語教師で、本当に偶然だけど…文芸部の顧問をやっている。案内なら、するよ。2人は?」
そう言うと、2人はハイタッチをしてジャンプした。
「うお、やはり神の導きでござるな!! うむ、名乗られたら名乗るのが鉄則。拙者、伊藤小夏と申す。1年2組でござる」
「小生も同じく1年2組、網本凛々子だ! では、柊弥たそ。案内の方、宜しく頼むな!」
「……だから、大井拓也だって」
この2人、常にこんな感じなの?
え、どうやってこの高校の面接に受かったの?
本気を出せば『普通』に喋ることができるの?
俺、教師だけど。
他の教師に対してもこんな感じなの?
……未知すぎる。