オタクな生徒が俺を「柊弥たそ」と呼び、讃え崇めてきます。

眼鏡でオンオフをしているって言っていたけれど。
そんな単純なことでもない気がする。

出会って2日なのに。
何だか、そんな気がしてきた。


「…眼鏡、掛けようか」
「うむ…」


大人しく眼鏡を掛ける。
表情が元に戻った伊藤さんは、椅子に座って再び窓の外を見た。


調子狂う…。


「伊藤さん、俳句が何かは分かる?」
「はい。五・七・五からなる短い詩です」
「……そう」

棚を探って『俳句の基礎』と書かれた本を取り出す。
これは新入りにまず読んで貰う本だ。

とは言え、正直別にそこまで力を入れている訳でも無いから。
五・七・五で好きなように考えてくれたら、それだけで良かったりする。


「俳句をさ、思ったように考えてみて。これを見ながら」
「え」

本を渡すと、困ったように受け取ってページを捲る伊藤さん。

少しだけ頬を膨らまし、何かを考えていた。


「伊藤さん、どうかな」
「……戻りたい」
「…ん?」
「戻りたい 願い続けて 早3年」
「…………」


事の真相は分からないけれど…。
何だか、闇を感じる。


「い…良いね」
「本当に良いと思っていますか?」
「え?」
「私は、良くないと思います」
「…………」


また窓の外を見ている伊藤さん。

凄く…難しい。

眼鏡無しの伊藤さんは意味不明過ぎて難しいけれど、眼鏡有りの伊藤さんも扱いにくくて難しい。



…どうしよう。

どう接するのが正解か、全然分からない。










< 6 / 17 >

この作品をシェア

pagetop