社畜地味OLは異動してきた甘々上司に甘やかされるそうです。

優輔Side

　上川優輔は田中知代子の直属の上司になる前は、別の部署で管理職を務めていた。知代子とは接点こそなかったものの顔と名前はしっかり把握していた。
　彼は小学校、中学校、高校、大学とエスカレーター式の有名学校で過ごした。実家は昔ながらの大地主で、父親は銀行で働いていて姉2人と兄1人、双子の弟が2人いるという割と大家族でもある。そんな家庭環境で育った為、家事や子供の面倒を見るのは特技に入ると言っていいくらいのレベルだ。
　姉2人は既に嫁いでおり、子供もいる。なおどちらも恋愛ではなくお見合い結婚によるものだった。夫婦仲はどちらもそれなりには良く、言葉を交わさずとも相手の事が理解できるくらいには強固な信頼関係を構築出来ているそう。

（俺にもいつかは、運命の人が現れたりするんだろうか）

　そんな思いを漠然と抱えたまま、優輔は成人し会社に入社し順調にキャリアを積んでいった。
　ある日。廊下を歩いていると遠くから誰かに向けて叱責する声を耳にする。

「あれは……」

　その時、叱責されていたのが知代子だった。知代子を叱責していたのは当時の部長である。

（あれは叱り過ぎじゃないか？）
「上川くん、ちょっといいかい？」
「あ、はい」

　様子を遠目から見ていた優輔は、管理職の中年の男性社員に呼び出され、後ろ髪を引かれる思いを抱えながらその場を後にした。