身代わり婚だったのに、極甘愛で満たされました~虐げられた私が冷徹御曹司の花嫁になるまで~
プロローグ
「痛っ」
 じゃがいもを剝いていた包丁が滑り、右手の人差し指にチクリとした痛みが走る。

(あ、ちょっと切れちゃったな)
 包丁を置いて見てみるとじわっと血がにじみ始めていた。でも刃が当たって少し切っただけなので気にするほどの傷ではなさそうだと思った。

結乃(ゆの)、どうした?」
 結乃の小さな独り言を聞きつけたのか、仕事で書斎に籠っていたはずの彼がやってくる。

「血が出てるじゃないか」
 大きな掌で結乃の手首を掴んだ彼は、まるで自分が怪我をしたかのようにその端正な顔を歪ませる。

「痛むか?」

「大丈夫です。見ての通り、ちょこっと切っただけなので」

「傷を甘く見てはいけない。ばい菌が入ったら大変だ」

「え……」
(どう見ても甘く見ていい傷ですが……)
 
 彼は困惑する結乃の手首を掴んだまま水道の蛇口に誘導し、水流を調整しながら傷口を流す。
 そして結乃をリビングの本革張りのゆったりとしたソファーに座らせたかと思うといったん離れ、救急箱を手に戻ってきた。
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