身代わり婚だったのに、極甘愛で満たされました~虐げられた私が冷徹御曹司の花嫁になるまで~
 同期で同じ年。会社で共に闘っていると考えると秘書というより戦友といった関係かもしれない。
 だからといってこうしてふたりになると上司に対しての敬いが足りなくなるのはどうかと思うが。

「わかりますって。どうせ結乃さんのことを思い出して『俺の妻くっそかわいい。小さくしていつもポケットに入れて運べたらいいのに』とか思ってたんですよね」

「ポケットか、いいな」

「否定しない! こわっ!」

「そうすれば、余計な事ばかり言う秘書に苛立った気持ちを多少慰めてはくれそうだ」

「……俺もコーヒーもらいまーす」

 湊はわざとらしい態度でそそくさと逃げていく。
 コーヒーメーカーを操作する秘書を尻目に耀は思った。
 確かに彼女をポケットに入れて持ち運べたらいいかもしれないと。
 
 宇賀地家の一人息子である耀は、厳しい祖父に『宇賀地グループの跡取りとはこうあるべき』という型に嵌められ育った。両親も祖父には逆らえなかった。

 習い事も勉強も受験もやらねばいけないことが明確だから、それを淡々と行えばいいだけだと考える冷めた子供だった。
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