身代わり婚だったのに、極甘愛で満たされました~虐げられた私が冷徹御曹司の花嫁になるまで~
 ともかく彼女との縁はこれで終わりだろう。相当怒らせてしまったから嵯峨家から断りの連絡が入るだろうと思っていた。母にもこちらから先方に連絡する必要はないと伝えておいた。

 そんな中耀は会食帰りの繁華街で偶然結乃の姿を見かけた。

 社会勉強のため働いているとは聞いていたが、残業したのだろうか。
 迎えもなく一人で繁華街の焼き鳥屋の前でうっとりと立ち止まったと思ったら、酔っぱらいに絡まれている。何もかもがおかしい。
 耀は躊躇なく彼女を助けた。
 
 普段着の彼女を見て、小柄で童顔なのにスタイルがいいから変な男に目を付けられやすいと思った。
 しかし彼女はそのことに自覚がないようだ。
 
 その後送って行った彼女の自宅はお世辞にも立派とは言えない古い家。
 結乃は今は嵯峨家ではなく父方の祖母とふたりで住んでいると言ったが、防犯面と安全面で問題のありそうなこの家に彼女が住んでいると思うと妙に落ち着かなくなった。

 吉祥寺のカフェに連れて行ったあの日、結乃はメニューひとつひとつに感動し、頬を綻ばせながら口に運んでいた。
 屈託の無い笑顔に耀の胸の中にくすぐったいような温かい感情が生まれていた。
< 107 / 160 >

この作品をシェア

pagetop