身代わり婚だったのに、極甘愛で満たされました~虐げられた私が冷徹御曹司の花嫁になるまで~
 しかし病院のエントランスをトボトボと歩く彼女の暗く不安気な表情を見た途端、口をついて出たのは『俺と結婚しないか』という言葉だった。

 冷静な判断を感情が無視するなんて生まれて初めてのことだった。

 結乃は驚き固まっていた。無理もない。耀自身も何を言い出してるんだと思ったのだから。

『――だから一応嵯峨家の血筋ではあるんですけど、嵯峨家で育てられたわけではなくて高校生の時厄介になっていただけなんです』

 結乃は家の修繕費用と祖母の生活費のために見合いの代役を受けた経緯を打ち明け謝罪したが、耀が覚えたのは困っている姪を無条件に支援せず、娘の代役として利用した結乃の伯母に対しての不信感だった。

(まあ、金をちらつかせて結婚に持ち込んだということでは俺も同じか)
 彼女との会話を思い出して耀は自嘲する。

『今日君の事情を知って気が変わった。お互い目的がある割り切った結婚が出来そうだと』

『目的?』

『俺は社長の座、君は金。わかりやすいだろう』
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