身代わり婚だったのに、極甘愛で満たされました~虐げられた私が冷徹御曹司の花嫁になるまで~
 痛いところを突かれ、ふっと心が緩む。その時、結乃の目か雫がポロリと零れた。
 一度落ちた涙は次から次へ頬を伝って落ちていく。

「……っ、あれ……どうしよう……」
 止めたいと思うのに、涙は溢れ続ける。

「大丈夫だ」

 耀は抱きしめたまま背中をさすってくれる。このまま思う存分泣いていいと促すように。

 彼の声も、抱きしめる腕も大きな掌も温かく優しい。
 緩んだ心のまま、今まで閉じこめていた悲しみが開かれていく。

 涙と共に零れたのは小さな呟きだった。

「……お父さん、お母さん……なんで私を置いて死んじゃったの?……寂しい……会いたいよ」
 
 結乃は涙を止めることなくしばらく耀の胸で泣き続けた。
 耀は何も言わずずっと結乃を優しく抱きしめていてくれた。

 どれくらいそうしていただろう、結乃は耀の腕の中で目を覚ました。
 ついウトウトしてしまったらしい。泣き疲れて眠くなるなんて子供のようなことをしてしまった。

「――みっともないところ見せてごめんなさい。でも、いっぱい泣いたらスッキリした気がします」

「そうか」

 耀は結乃の涙の痕を指で優しく拭い、さらに慰めるかのようにその上に唇を落とした。
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