身代わり婚だったのに、極甘愛で満たされました~虐げられた私が冷徹御曹司の花嫁になるまで~
 ドアの向こうで湊の声がするが、耀は「忘れものだ」と言ってから結乃に向き直った。

「耀さん、忘れ物って何ですか? 取ってきます」

 慌てて確認しようとした結乃だったが、耀に腕を取られ引き寄せられた勢いのまま胸にすっぽりと抱きしめられた。

「えっ……」

「結乃、行ってくる」

”忘れ物”が何なのか理解した途端、結乃の顔に熱が集まってくる。

「……はい。行ってらっしゃい」

 耀は真っ赤な顔をした結乃の唇に触れるだけのキスを落とすと、何もなかったように玄関のドアを開け出て行った。

 耀への想いを自覚してから二週間ほど。彼の胸で大泣きしてからふたりの心の距離はさらに近づいた気がしていた。

 それに今みたいに名残惜しくされたら、どうしても期待してしまう。

(もしかしたら、耀さんも少しは私のことを好きになってくれてたり? ……だめだ、なんせ恋愛経験がないから、どうしていいか全然わからない)

 結乃は熱を持った頬のまま、もだもだと頭を悩ませるのだった。


 耀が出張に出て3日後、結乃は午後半休を取り、リハビリ病棟に移った祖母の事務手続きをして帰ってきた。

「ただいま……」
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