身代わり婚だったのに、極甘愛で満たされました~虐げられた私が冷徹御曹司の花嫁になるまで~
「そうでしょう? 美佐子はわがままを言って釣り合わない男と家を出たから不幸になったのよ。ちゃんと気付けて帰って来た亜希奈とは違うの」

 その時、結乃の中で諦めと怒りの感情が沸き上がった。

「いいえ」と言いながらソファーから立ち上がり伯母を見据える。

「お母さんはこの家を出て幸せになったんです」

 令嬢として育った母は父と結婚し、慣れない生活で苦労したこともあったかもしれない。

 でも結乃の思い出の中にいる母、そして父は裕福とは言えない生活の中でもいつも笑顔だった。それはきっとふたりが誰よりもお互いを必要とし、愛し合っていたから。

 それを幸せと言わず何というのだろう。

(できることなら、私も耀さんのそんな存在になりたい)

 今まではっきりと反抗したことのなかった結乃の静かな迫力に伯母は目を見張ってこちらを見ていた。

「育ちがいいというのが人を見下すことなら、私は育ちが悪くて良かった。耀さんの口から私を必要としないと言われたら自分の意思で彼の前からいなくなります。伯母さんが決める事じゃない」

「な……なんて生意気な口をきくの! 恩知らず!」
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