身代わり婚だったのに、極甘愛で満たされました~虐げられた私が冷徹御曹司の花嫁になるまで~
 一瞬怯んだ伯母はガバリと立ち上り結乃に近付くと右手を振りかぶった。

 叩かれてもいい。逃げない。そう思って痛みを覚悟した時、リビングに声が響いた。

「母さん、やめろっ!」

 飛び込んできたのはふたりの男性。ひとりは巧巳、もうひとりは――

「……耀さん?」

 耀は驚く結乃に早足で近づくと伯母から庇うように斜め前に立ち、小声で呟いた。

「君にいなくなられるのは困る」

 息子と耀が現れ驚いていた伯母だが、すぐに何もなかったかのように結乃から離れた。

「宇賀地さん、急にどうされたんですか。ご連絡いただければよろしかったのに」

「急な訪問失礼。いろいろはっきりさせたいことがありましてね」

 結乃の隣に立つ耀の口調は平坦だが声色がとても低い。
 しかし斜め後から見える表情からは感情を一切感じさせない。

「はっきりするために亜希奈に会いに来て下さったということかしら。 ええ、この子なら宇賀地ホールディングスの社長夫人として宇賀地さんに恥ずかしい思いをさせませんわ――ほら亜希奈」

「嵯峨亜希奈です。よろしくお願いします」
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