身代わり婚だったのに、極甘愛で満たされました~虐げられた私が冷徹御曹司の花嫁になるまで~
 目でも楽しめるように繊細な盛り付けで出される懐石料理はどれも初めて食べるようなものだ。
 和紙に書かれたお品書きを確認しながら口に運ぶ。

(おいしい! この、ゆり根饅頭っていうの?……すごいモチモチしてる。饅頭っていってもお饅頭じゃないんだ。ゆり根が練り込んであるってこと? ていうかゆり根って初めて食べるかも)
 
 出てくる料理のあまりの珍しさと美味しさについ頬が緩むが、だらしない顔を晒さないようになんとか表情を保つ。

”食べ物を大事に”は山崎家では絶対的な家訓だった。
 それに従って結乃はしっかり余さずいただくことにした。

「だから、この後はふたりでお庭でも見て来たら?」

「えっ?」
 結乃は伯母の言葉で我に返る。

「そうそう、あとは若いふたりでね。私たちはこちらでお話をしてますから、いってらっしゃい」
 
 耀の母も微笑む。結乃が水菓子に出されたシャインマスカットのみずみずしい甘さに感動しているうちにそういう流れになっていたらしい。

 お見合いのド定番『あとは若いふたりで』を現実で聞くことになろうとは。しかも当事者として。結乃は妙な感慨にひたる。
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