冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う「その後のお話し」
そんな昼下がりの秘め事から3日が経った。
その間も、俺は金髪の英国紳士の監視にも似た視線を感じていた。
かと言って、向こうから近付いて来る様子は無いし、莉子本人は全く気付きもしていないから、とりあえず傍観する事にした。
今週でこの船も英国に到着予定だ。
出来れば揉め事は避けたいし、楽しそうにしている莉子に要らぬ心配もかけたくない。
今日は、昨日から降り止まなかった雨が嘘のように晴れ渡り、水面も穏やかに揺れている。
俺と正利君はサロンで寛ぎながら、英国に到着してからの仕事の計画を、談笑を交え軽く話していると、
莉子と亜子の姉妹がパタパタとこちらに駆け寄って来る姿が目に止まり、話しを止める。
何事かと正利君と目を合わせ様子を伺っていると、
「司さん!凄いんです…船の後ろを、大きな魚がいっぱい…。」
息を切らしながら、莉子が言う。
「お兄様、早く!!」
正利君の手を引っ張って、亜子も珍しくテンションをあげているようだ。
そんな2人に促されながら、俺も甲板に出てみると、数人の乗客が既に歓声の声を上げていた。
「司さん、早く早く!」
莉子が子供のようにはしゃいで俺の手を引っ張り、人々が集まる方へと連れて行く。
「おお…これは凄い!!」
一足先に辿り着いた正利君が声をあげる。
俺も彼に習って海原を見下ろすと、数十いや数百頭はいるだろうか、イルカの大群がジャンプしながら、船の後ろを着いて来ているのが目に入る。
「これは…凄いな…。」
さすがの俺も言葉を失い、その素晴らしい光景をただただ見下ろしていた。
「凄い…!何頭いるんでしょう?
わぁー!…2頭揃ってジャンプしてます。」
莉子が隣ではしゃぎ拍手をしている。
いささか危なっかしくて、その肩を引き寄せ守りながら感動を共にした。
「多分、バンドウイルカだな…。」
俺が誰に言うでも無くそう呟くと、
「バンドウイルカ…可愛いい名前…。」
と、莉子も呟く。