冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う「その後のお話し」
控え室は莉子と別々だから、会いたい衝動にかられるが、式が始まるまでは会う事を許されない。

「若様、よく堪えてくれましたね。」
運転手の鈴木がパチパチと手を打ち讃えてくれる。

「今日は大切な日だ…。その日をあんな低レベルな話で濁すなんて、莉子に花向け出来ないからな。」

「大人になられました。」
鈴木から父のような目を向けられて、司は苦笑いする。

「家庭を持つってそういう事だろ。」

「そうですね。貴方だけの事ではなくなりますから。良い傾向です。ただ…昌子様の事です。このまま大人しくしてくれてれば良いのですが、目を光らせて見ております。」

「頼んだ。莉子に何があったらいけない。」

身重の莉子の事だから少しの事でも命取りだ。
司としては結婚式だって、本当は産まれてからでいいと思ったほどだったのだ。

さすがにそれでは体裁が悪いと父が言うから、仕方なく親族のみにしたのだから。

「そろそろ、お支度が整いますのでご準備をお願いします。」

女中から声をかけられて、やっと莉子に会えると立ち上がり玄関へと向かう。

長谷川家では代々檀家としている神社があり、時期当主の結婚式の際には、神社の参道を親族を従えて歩く参進というお披露目の儀式がある。

そこには近隣の人々やお世話になった方々が集まり、そんな人々の間を神前まで歩く。距離にして300メートルはあるだろうか…。

その道中を身重な莉子が、幾重にも重なった重たい着物を着て歩かなければならないのだ。それは流石に無理だと言って、200メートルを人力車を使い、残りを歩く事にした。

玄関の前に停まった豪華な飾りの人力車を見て、司はその豪華さに派手すぎないかと顔をしかめる。

「本日は、お日柄もよく…。」

まるで、歌舞伎の口上のように人力車を引っ張る車夫が声を上げて挨拶をしてくる。

ああ、もうショーは始まっているのかと、司はまるで他人事のように、緊張もなく落ち着いた気持ちで聞いていた。

「お待たせしました。」
千代の声を聞き、ああ、と振り返る。
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