冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う「その後のお話し」
玄関の奥に、白無垢姿に綿帽子を被った花嫁を見つける。
一瞬で、司は引き込まれるように見惚れてしまう。
そこだけが、まるで光が差し込まれたように、白く光り輝いて見えるから不思議だ。
そして、自分の心臓も今動き出したかのように早鐘を打ち出す。
何人かの女中に手助けされながら、花嫁はぎこちない足取りで草履に足を通している。
本来ならその場で、花嫁が来るのを待たなければいけないのだが、司は無意識に莉子の居る場所に足が動いてしまっていた。
「莉子…綺麗だ。」
莉子に手を差し伸べながら司が言う。
えっ⁉︎っという顔を上げた莉子は司を見て、少し目を見開き驚く。事前に練習した段取りと違い、直ぐ側まで迎えに来てくれていたから…。
「あ、ありがとうございます…。」
司の手に手を重ねながら莉子が言う。
綿帽子のせいで顔をちゃんと見る事が出来ない。
その事だけで莉子は不安を感じてしまう。
司はそんな莉子の気持ちを知ってか知らずか、ぎゅっと手を握って、人力車までゆっくりした足取りで付き添ってくれる。
「体調は大丈夫か?お腹の締め付けで気持ち悪くなったりしてないか?」
白無垢は何重にも重ねられて、重量もそこそこありそうだ。
「大丈夫です。多少の歩き辛さはありますが平気です。それよりも綿帽子のせいで、司さんの顔がちゃんと見れません…。」
そう寂しそうに言うと、
司がわざわざ腰を折って莉子の顔を覗き込んでくれるから、不意に目があって、二人はニコリと笑い合う。
「急がなくて良い。ゆっくりで良いから莉子は歩く事だけ集中してくれ。」
「はい。」
莉子が小さく頷く。
ゆっくり人力車の所まで行くと、司はヒラリと軽々飛び乗り、莉子が乗りやすいように、人力車の上から手を取ってくれる。
踏み台が用意されていたので、莉子は不安定な足取りで台に上る。
グィッと司が手を引っ張ってくれて事なきを得る。
「ありがとうございます。」
莉子はホッとして腰をかける事が出来た。