冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う「その後のお話し」
出発の掛け声を車夫が大きな声で言う。
すると、参道で待ち構えていた人々から次々に祝福の声をかけらる。

雅楽奏者が数名列を成し先頭を歩き、雅な音楽が奏られる。その後に白に赤い袴の巫女が3人続き唄を歌う。

その後を煌びやかに飾られた人力車が続く。

ゆっくり動き出す人力車の上から、段取り通り人々に軽くお辞儀をして莉子と司は手を振り返す。
その後ろを司の両親や兄妹、亜子や正利も着いて歩く事になる。

こんな沢山の人々に注文された事はまずないから、莉子は始めカチコチに緊張したが、道中ずっと司が手を繋いでくれたから、少しだけ気持ちがほぐれていくのを感じた。

「あっ…あそこに私の子供の頃のお友達が…。」

莉子がびっくりして見つめる先を司も見る。
そこに数人の令嬢がいるのを見つけて、2人で頭を下げて手を振る。

もし、莉子が何事も無く大きくなっていれば、きっと交わる事の無かった間柄になっていただろうか…。
司は彼女達を見つめて、ふとそう思う。

いや…それでも莉子を見つけて、どうにか成りたいともがいていた筈だ。今、隣に居てくれるこの奇跡を大事にしなければと、繋いでいる手を強く握り締める。

「莉子…俺と結婚してくれてありがとう。」
自然と口をついて出た言葉は、ありきたりなものだったけれど、

「こちらこそです。」
と、笑顔で返事が帰って来て、2人、束の間目を合わせ微笑み合う。

すると、今度は司が、

「あっ…若旦那と…あれは、夕顔…?」

えっ!?っと莉子も驚いて人力車の上から振り返る。
紀伊國屋の従業員数人の中に、若旦那とその横に綺麗な女性が赤ちゃんを抱いている。

「えっ!赤ちゃん⁈」

「なるほど…上手くやったな。」
ハッと司が笑うから、

「…どういう事ですか?」
と、莉子が聞く。

「いや…こっちの話し。亜子にも教えてあげないと。」

「はい。きっと驚きますね!」

後ろを歩く亜子に目配せして、若旦那を指差し教えると亜子がこくんと頷いたので伝わったようだ。

亜子は二人の姿を見つけて驚き手を振り返している。

司はその姿を見ながら1人思う。

きっと子が出来れば身請け金も下がるし、親だって駄目とは言えなくなる。

若旦那だけの企じゃない事を願うが…そう思いながら、若旦那に向けて頭を下げた。
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