冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う「その後のお話し」
「あの子は…まったく…未だにあんな調子なのか?本当に親族のお荷物だ。」
と、司の父が辛辣な事を言ってため息を吐く。

「莉子、彼女には気を付けて何をするか分からない。」
司に優しく諭されて、訳も分からないながらこくんと頷く。

「だいたい…神前式にあの着物を選ぶとは…。」
司の弟の学さえも呆れた視線を投げかけいる。

「莉子さんあの人の言う事は、半分聞き流した方が身のためよ。ろくな事言わないんだから。」
妹の麻里子もため息混じりに莉子に寄り添う。

「そうなんですね…。」
莉子は真紅の振袖の袖を、邪魔そうに引きずりながら階段を上る姿を見つめる。


その後は滞りなく挨拶が終わり、家族達も席に着くため足早に階段を上り先を行ってしまう。

莉子は司と一緒に最後に階段を上る事になる。

改めて下から5段の階段を見上げる。
大丈夫かしら?一歩踏み外せば大変な事になるわ。

1人心配になりながら、恐る恐る足を運ぶ。

「莉子様、少し失礼しますね。」
すると、いつの間にか近付いて来ていた千代がすかさず、引きずるほど長い裾を後ろから持ち上げてくれる。

司は莉子の横にピタリと付き、片手で腰の辺りを支え、残りの手で手を握り、
「支えるから心配しないで、ゆっくり上れば良い。」
と勇気付けてくれた。

その後ろに鈴木が付き、万全の体制で階段を上る。

司が莉子を持ち上げるように支えてくれたお陰で、身体が軽く感じるほど簡単に上り終えることが出来た。


少し控え室に入り束の間ホッとする時間をもらう。

司は莉子を椅子に座らせ、自ら湯呑みにお茶を淹れ、綿帽子で隠れた莉子の顔を膝をついて覗き込む。

「大丈夫か?どこか辛いところとかないか?」

「大丈夫です。」
フワッと笑う莉子を心配そうに見つめ、湯呑みを渡す。

「水分を取っておいた方がいい。」
莉子はこくんと素直に頷きお茶をありがたく頂く。

改めて、ここで司の紋付袴姿を見つめ、私の旦那様は何を着てもカッコいいなと目を細める。

「司さん…とても素敵です。」
と莉子が司を突然褒めるから、

不意をつかれた司はお茶を飲む手を止め、瞬きを繰り返す。

「何だ?誉め殺しか?」

「違います。紋付袴姿がお似合いでカッコいいなと思ったんです。」

司は不意に莉子に褒められて、やたらと心拍が上がってしまう。

「莉子に相応しい男で居られればそれで良い。」
照れ隠しのようにそう言って、莉子の隣にどかっと座り、明らかに動揺している司が可愛らしいと莉子は微笑む。

きっと、ずっと言われ慣れているだろう褒め言葉なのに…。

「私の旦那様は世界で一番カッコいいです。」
莉子がこれでもかと追い討ちをかけて来るから、司は口元に手を当てそっぽを向いてしまう。

ふふふっと笑う莉子に抗議するように、

「旦那をからかって楽しむなんていけない妻だ…。」
と、司が呟いた。

「司さん、改めてどうか末永くよろしくお願い致します。」
頭を下げる莉子に対して、
「こちらこそ。嫌だと言われても絶対手放さないから覚悟しとけよ。」

なぜか喧嘩ごしの口調で言う司が可愛くて、ふふっと笑ってしまう。こう言う時は急に子供に戻ったみたいで可愛く見えてしまうのだ。

そんな司も自分の態度が可笑しかったのか、莉子につられて笑い始める。

莉子にはいつだって調子を崩されて困ってしまう…だけどそんな自分は嫌いじゃない。
司はそう思い、莉子の手の甲に仕返しとばかりに口付けを落とす。

その様子を見て、長年付き添ってきた乳母の千代と運転手の鈴木がそっと微笑む。

いつだって自信と威厳に満ちていて、カッコいいを自で行く男が、妻を前にすると途端に崩されるから面白い。

今まで誰の前だってきっと気を抜く事も出来ず、肩肘張って生きて来た男が、ちょっとの間に垣間見せる素の表情に、人間らしさを感じてホッとするのだった。
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