冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う「その後のお話し」
しばらく気持ちを抑える為に、司の寝息をただ無心に聞いていると、知らないうちに眠くなって司に抱きしめられながら眠ってしまっていた。

大きな客船はさほど揺れる事はなく、本当に動いているのかと、錯覚してしまうほど乗り心地が良かった。



辺りが暗くなった頃、
トントントントン

と、部屋のドアをノックする音を聞き、莉子は目を覚ます。

ハッと飛び起き、そっと司を起こさぬように腕から抜け出し、ドアの方に行き、はい?と返事をする。

「Hello, I'm the captain of this ship.」
(こんにちは。私はこの船のキャプテンです。)
英語で話しかけられて全く理解出来ない莉子は、どうしたものかと考える。

「すいません… I don't understand English.」
(私は英語が分かりません。)
司から教えてもらった唯一の英語を話してみる。

「おー、すいません…。ミスターツカサにあいさつ、きました。この、シップのキャプテンです。」
カタコトの日本語で話しかけてくれる。

莉子は船長だと分かって、そっとドアの鍵を開ける。

「すいません…。今、夫は寝てまして、また、後でご挨拶に伺います。」
分かりやすいように噛み砕いて説明してみる。

「あー、おやすみ中ね。I see.ディナーの時にまたあいにきますね。see you later.」

そう言って、船長は去って行った。

えっと…ディナーって何だっけ???
早速言葉の壁にぶつかって、莉子は持って来た和英辞典を見て見る事にする。

司を起こさないようにそっと毛布を掛けてから、トランクを開けて和英辞典を取り出し、単語を拾う。

ディナーはdinnerでいいのかな?夕食の事ね。

じゃあ、朝食はなんて言うんだろう?好奇心が相まって、しばらく絨毯の床に座り込み、夢中になって和英辞典を読み解いていた。

「…莉子…?そんな、所で何している…?」
しばらく辞典を読みふけっていると、司が目を覚ましたらしく声をかけられる。

パッと顔を上げると、今さっき起きたばかりの気怠そうな雰囲気の司が、ソファに座っていた。

寝起きの彼は色気がだだ溢れで、慣れない莉子はいつだってドギマギしてしまう。

「あっ…おはようございます。よく眠れましたか?」
莉子は平常心を装って彼に微笑む。

手櫛で髪を整えながらおもむろに立ち上がり、莉子の方へと足を運ぶ。

そして、莉子と同じように絨毯に腰を下ろして、手元にある辞書を覗き込む。
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