冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う「その後のお話し」
その3 そして、母になる
そして秋になり、順調にお腹の中の赤子は成長して行く。
司は妊娠中は今まで以上に心配し過保護になった。
お盆より重たい物を持つ事を禁止された莉子は、何か家事を手伝おうとするたびに、女中達によって止められ、日がな一日、本を読んで過ごしたり、音楽を聞いたりと、まるでどこかの令嬢のようなのんびりした毎日を過ごした。
そしてついに生まれ月の2月を迎えた。
莉子は前日からお腹の張りを感じ、自分よりもソワソワする夫を宥め続けていた。
「私の母は子供の頃から体が弱かったにも関わらず、子供を3人立派に生んでおります。だから、そんなに心配しないで。」
莉子の意見はもっともだが、司にとっても莉子にとっても何しろ始めての事だから、どうしようもなく不安なのはいた仕方がない。
「大事な商談だけこなして直ぐに帰って来る。仕事どころではない。」
そう言って、朝早く仕事に出かけて行った司に第一報が届いたのが昼過ぎ、千代から陣痛が始まったと電話を受け、産婆よりも早く駆けつけた。
司は服を着替える事さえ忘れて、陣痛が来るたび莉子の手を握り一緒に苦しみ、背中をさすり続けた。
そして夕方、誰よりものんびりと登場した産婆の指示の元、いよいよ出産となる。
「さあさあ、旦那様は外に出ていておくれ。邪魔になるだけだ。」
産婆に追い立てられ、重い腰を上げて司は廊下に出る。
真冬だと言うのに、額に玉のような汗をかいて苦しそうにしている莉子が心配でならない。
痛いずなのに決して声を出さず、グッと我慢している姿はさすがだと、司は神々しい者を観ているような気にもなった。
日が暮れても今夜は帰らない亜子と、司は共にソワソワと廊下で行ったり来たりを繰り返す。
「司様、お姉様は大丈夫です。信じて待ちましょう。」
そう言う亜子だって、先程からドアに耳を当て中の様子を伺っている。
「何か…聞こえてくるのか?」
そんな微々たる音さえも気になる司も、同じようにドアに耳を当て聞き耳を立てる。
そんな風にしばらく中の様子を伺っていると、
…オギャ オギャー オギャー
子供の泣き声が聞こえてくる。
「生まれた!」
この日ばかりは手を取り合い、廊下の2人は感動を分かち合う。
それから、やっと赤子を抱いて出て来た千代を、2人して質問責めにする。
「莉子は?莉子は大丈夫か?」
司の1番の心配事はやはり莉子の事だ。
「大丈夫です。お疲れですので少し安静にされています。」
「赤ちゃんは男の子?女の子ですか?」
亜子の関心事はどうしたって、千代の腕の中にいる小さな小さな赤子の事で、それはまるでガラス細工のように繊細で、下手に触れたら壊れそうだと、司はハラハラしながら覗く。
「司様おめでとうございます。男の子ですよ。
亜子様、抱いてみますか?」
亜子は廊下にもかかわらず、万が一でも落としてはいけないと床に正座して、千代から生まれたての赤ん坊を抱かせてもらう。
司はその横で片膝を立ててその腕の中の宝物を覗き込んでいる。
「暖かい…。ふわふわして可愛い。」
赤子の頬っぺたをツンツンしている亜子に対して、司は怖くてなかなか触れないでいた。
「司様、貴方が父親なんですからしっかりしてくださいな。ちゃんと抱いて差し上げてください。」
千代に促されて、司も亜子に習い床に胡座をかいて座り赤子を抱く。
「小さいな…。両手ですっぽり収まるぐらいだ。」
それでも小さく身じろぐ赤子が可愛くて、そっと人差し指で頬を撫ぜてみる。
すると、目をうっすら開けて今にも泣き出しそうだから、
「ち、千代早くっ。」
と素早く千代に戻してホッと息を吐く。
司は妊娠中は今まで以上に心配し過保護になった。
お盆より重たい物を持つ事を禁止された莉子は、何か家事を手伝おうとするたびに、女中達によって止められ、日がな一日、本を読んで過ごしたり、音楽を聞いたりと、まるでどこかの令嬢のようなのんびりした毎日を過ごした。
そしてついに生まれ月の2月を迎えた。
莉子は前日からお腹の張りを感じ、自分よりもソワソワする夫を宥め続けていた。
「私の母は子供の頃から体が弱かったにも関わらず、子供を3人立派に生んでおります。だから、そんなに心配しないで。」
莉子の意見はもっともだが、司にとっても莉子にとっても何しろ始めての事だから、どうしようもなく不安なのはいた仕方がない。
「大事な商談だけこなして直ぐに帰って来る。仕事どころではない。」
そう言って、朝早く仕事に出かけて行った司に第一報が届いたのが昼過ぎ、千代から陣痛が始まったと電話を受け、産婆よりも早く駆けつけた。
司は服を着替える事さえ忘れて、陣痛が来るたび莉子の手を握り一緒に苦しみ、背中をさすり続けた。
そして夕方、誰よりものんびりと登場した産婆の指示の元、いよいよ出産となる。
「さあさあ、旦那様は外に出ていておくれ。邪魔になるだけだ。」
産婆に追い立てられ、重い腰を上げて司は廊下に出る。
真冬だと言うのに、額に玉のような汗をかいて苦しそうにしている莉子が心配でならない。
痛いずなのに決して声を出さず、グッと我慢している姿はさすがだと、司は神々しい者を観ているような気にもなった。
日が暮れても今夜は帰らない亜子と、司は共にソワソワと廊下で行ったり来たりを繰り返す。
「司様、お姉様は大丈夫です。信じて待ちましょう。」
そう言う亜子だって、先程からドアに耳を当て中の様子を伺っている。
「何か…聞こえてくるのか?」
そんな微々たる音さえも気になる司も、同じようにドアに耳を当て聞き耳を立てる。
そんな風にしばらく中の様子を伺っていると、
…オギャ オギャー オギャー
子供の泣き声が聞こえてくる。
「生まれた!」
この日ばかりは手を取り合い、廊下の2人は感動を分かち合う。
それから、やっと赤子を抱いて出て来た千代を、2人して質問責めにする。
「莉子は?莉子は大丈夫か?」
司の1番の心配事はやはり莉子の事だ。
「大丈夫です。お疲れですので少し安静にされています。」
「赤ちゃんは男の子?女の子ですか?」
亜子の関心事はどうしたって、千代の腕の中にいる小さな小さな赤子の事で、それはまるでガラス細工のように繊細で、下手に触れたら壊れそうだと、司はハラハラしながら覗く。
「司様おめでとうございます。男の子ですよ。
亜子様、抱いてみますか?」
亜子は廊下にもかかわらず、万が一でも落としてはいけないと床に正座して、千代から生まれたての赤ん坊を抱かせてもらう。
司はその横で片膝を立ててその腕の中の宝物を覗き込んでいる。
「暖かい…。ふわふわして可愛い。」
赤子の頬っぺたをツンツンしている亜子に対して、司は怖くてなかなか触れないでいた。
「司様、貴方が父親なんですからしっかりしてくださいな。ちゃんと抱いて差し上げてください。」
千代に促されて、司も亜子に習い床に胡座をかいて座り赤子を抱く。
「小さいな…。両手ですっぽり収まるぐらいだ。」
それでも小さく身じろぐ赤子が可愛くて、そっと人差し指で頬を撫ぜてみる。
すると、目をうっすら開けて今にも泣き出しそうだから、
「ち、千代早くっ。」
と素早く千代に戻してホッと息を吐く。