冷酷な御曹司は虐げられた元令嬢に純愛を乞う「その後のお話し」
それで話しは終わったから、きっと席を外してくれるだろうと思っていた莉子だが、ブライアンは一向に腰をあげようとしない。

そればかりか、ニコニコと微笑み莉子の方を見て来るから、少しばかり居づらい雰囲気になってきて、写真集をパラパラと巡り、時間が早く過ぎれば良いなと思うようになっていく。

「莉子さんは、まるで日本人形のように可愛らしい。」
ブライアンはそう言って微笑んでくるから、褒められ慣れていない莉子は困って、曖昧に笑い返すしかなかった。

いよいよ空気が苦しくなって、莉子は本をパタンと閉じて腰を上げる。

「では、私はこれで失礼します。」
そう、頭を下げてその場を後にする。

他の本も見て行こうと、日本語の本棚に行き2冊ほど借り、3冊の本を借りて貸し出しカウンターに向かうところで司に会う。

「あっ、司さん。お疲れ様でございます。」
莉子は嬉しくなって、足早に司に近付いて行く。

「良かった会えて。部屋に帰ったらいなかったから心配になって探しに来たんだ。」
と、司も笑顔で近付いて来る。

そして莉子が持っている本を当たり前かのごとく取り、自らカウンターに持って行って借りて来てくれた。

「ありがとうございます。」

莉子はお礼を言って、本を持とうと手を差し伸べるのに、首を横に振って代わりに莉子の手を握り、空いた方の手に本を持って歩き出す。

包帯をしていた手のひらは、2日前にやっと取れたばかりだ。
「司さん…手の傷に響きませんか?」

心配して繋いでいる司の手のひらを覗き込む。
かさぶたになった擦り傷が痛々しく、見る度に莉子の心をズキンと痛める。

「大丈夫だ。これしきの傷大した事はない。
俺はそれよりも、莉子と手を繋げない方が嫌だ。」
司はそう言って、ぎゅっと握って来るから、ふふっと小さく笑う。

最近の司はたまに、子供のような言い草をして莉子を困らせる。それをとても可愛く感じてしまう莉子も大概だが…。

廊下を2人、手を繋いで部屋に戻る時、司は誰かが後から着いて来るのに気付く。

誰だか分からないが少し嫌な予感がして、喉が乾いたと莉子を連れて喫茶店に立ち寄る事にする。

注意深く後ろを気にしながら歩いていると、
「あっ…。」
と言って、莉子が突然立ち止まりしゃがむ。

「どうした?」
突然、手を離された司はしゃがみ込む莉子を心配して覗き込む。

「かんざしが…。」
莉子は落ちてしまったかんざしを拾い司に見せる。
司はそれを当たり前のように手にとって、莉子の髪にそっと挿してくれた。

「ありがとうございます。」
微笑む莉子に笑いかけた瞬間、莉子の髪からほのかに男物の香水の香りを感じる。

近付かなければ分からないくらいの残り香だけど、それだけで不安が増して、司は莉子の手を先程よりもギュッと握る。
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