続・泣き虫の凛ちゃんがヤクザになっていた2
9話
その翌日の昼間、今度は市ノ瀬さんが来店した。
彼の姿を見た瞬間、私は緊張で身体が硬直する。
「すみません、生姜焼き弁当一つください」
「えっ、あぁっ、はい!」
市ノ瀬さんはいつもと変わらない様子だ。
やはり、私はこの人がヤクザであるとは信じられない。
そう言えば、市ノ瀬さんはなぜうちの店に来るのだろうか。
単に、客として来ているだけだろうか。
それとも、別の目的が?
そんなことを考えていると、私は思わず身構えてしまい、手元がブルブルと震える。
すると、市ノ瀬さんは落胆したような表情を見せた。
「和住くん、だったかな?どうやら、彼に私のことを聞いたようだね」
「えっ?あっ……」
どうやら、私が市ノ瀬さんのことを警戒しているのが、本人にバレていたようだ。
「すみません……」
「いいんだよ。反田の幹部だって聞いたら、そりゃあ誰だって身構えるさ」
市ノ瀬さんは穏やかな笑みを見せる。
私は彼の優しげな態度を見ていると、罪悪感で胸が締め付けられる。
「何か企んでいるんじゃないかって警戒しているかもしれないけれど、私はそんなつもりないよ。ただの野次馬……、君のことが気になって見に来ただけ。他の若衆と同じだよ。酒々井くんはミステリアスな子だからね。そんな彼が囲っている彼女が、どんな子なのか気になったんだ」
市ノ瀬さんは諭すように話す。
「……初めは、ただそれだけだったんだ」
「初めは?」
少し悲しげな表情の市ノ瀬さんに、私は首を傾げる。
「私にも娘がいるんだ。君と同じくらいの」
市ノ瀬さんは苦しそうに、振り絞るように語る。
「もう、何年も会えていないんだけどね。私のほうから、家族を捨ててしまったから……。君のことを見ていると、娘も今頃、君みたいな明るい女性になっているのかなって考えちゃってね。要は、君を通して、娘に会っているつもりだったんだよ」
市ノ瀬さんは「ごめんね」と消え入りそうな声で呟く。
私は、市ノ瀬さんがこの店に何度も通ってくれていた理由に納得した。
彼は本当に娘のことを愛しているのだろう。
市ノ瀬さんは「家族を捨てた」と言っているが、彼の様子から察するに、家族に迷惑を掛けないために縁を切ったのではないかと思う。
「もうここには来ないよ」
「えっ、そんな……」
「私みたいな人間がウロチョロしていたら、営業の邪魔だろう?それに、私がここへ通っていると酒々井くんが知ったら、彼はきっと怒るだろうからね」
市ノ瀬さんはそう言うと、商品の入ったビニール袋を持って私に背を向けた。
「最後に一つだけ」
市ノ瀬さんはそう言って振り返る。
「これからも酒々井くんのそばにいてあげてね。彼には、君が必要なんだ」
市ノ瀬さんはそれだけ言い残すと、寂しげな背を向けながら、店を後にした。
彼の姿を見た瞬間、私は緊張で身体が硬直する。
「すみません、生姜焼き弁当一つください」
「えっ、あぁっ、はい!」
市ノ瀬さんはいつもと変わらない様子だ。
やはり、私はこの人がヤクザであるとは信じられない。
そう言えば、市ノ瀬さんはなぜうちの店に来るのだろうか。
単に、客として来ているだけだろうか。
それとも、別の目的が?
そんなことを考えていると、私は思わず身構えてしまい、手元がブルブルと震える。
すると、市ノ瀬さんは落胆したような表情を見せた。
「和住くん、だったかな?どうやら、彼に私のことを聞いたようだね」
「えっ?あっ……」
どうやら、私が市ノ瀬さんのことを警戒しているのが、本人にバレていたようだ。
「すみません……」
「いいんだよ。反田の幹部だって聞いたら、そりゃあ誰だって身構えるさ」
市ノ瀬さんは穏やかな笑みを見せる。
私は彼の優しげな態度を見ていると、罪悪感で胸が締め付けられる。
「何か企んでいるんじゃないかって警戒しているかもしれないけれど、私はそんなつもりないよ。ただの野次馬……、君のことが気になって見に来ただけ。他の若衆と同じだよ。酒々井くんはミステリアスな子だからね。そんな彼が囲っている彼女が、どんな子なのか気になったんだ」
市ノ瀬さんは諭すように話す。
「……初めは、ただそれだけだったんだ」
「初めは?」
少し悲しげな表情の市ノ瀬さんに、私は首を傾げる。
「私にも娘がいるんだ。君と同じくらいの」
市ノ瀬さんは苦しそうに、振り絞るように語る。
「もう、何年も会えていないんだけどね。私のほうから、家族を捨ててしまったから……。君のことを見ていると、娘も今頃、君みたいな明るい女性になっているのかなって考えちゃってね。要は、君を通して、娘に会っているつもりだったんだよ」
市ノ瀬さんは「ごめんね」と消え入りそうな声で呟く。
私は、市ノ瀬さんがこの店に何度も通ってくれていた理由に納得した。
彼は本当に娘のことを愛しているのだろう。
市ノ瀬さんは「家族を捨てた」と言っているが、彼の様子から察するに、家族に迷惑を掛けないために縁を切ったのではないかと思う。
「もうここには来ないよ」
「えっ、そんな……」
「私みたいな人間がウロチョロしていたら、営業の邪魔だろう?それに、私がここへ通っていると酒々井くんが知ったら、彼はきっと怒るだろうからね」
市ノ瀬さんはそう言うと、商品の入ったビニール袋を持って私に背を向けた。
「最後に一つだけ」
市ノ瀬さんはそう言って振り返る。
「これからも酒々井くんのそばにいてあげてね。彼には、君が必要なんだ」
市ノ瀬さんはそれだけ言い残すと、寂しげな背を向けながら、店を後にした。